社会人になって間もない頃。近くの公園によく行っていた。大きな池があって、のんびりとした雰囲気。人出はいつもほどよい感じ。
その日は嫌なことがあり、ぼくはベンチに1人座っていた。曇り空の下、タバコを吸っていると、通りがかった子供が挨拶をしてくれた。そして、ぼくはそれを無視した。ただイライラしていたのだ。
すると、隣のベンチから怒鳴り声がした。黄色いシャツを着たおばちゃん。右手には何故か納豆のパックを持っていた。
にいちゃん、どういうことやの?
子どもが挨拶しとんねん!!
めんどくさいのがきた。普段なら関わるのを避ける。でもその時はちょっと噛みついてしまった。そしたら、おばちゃんがヒートアップした。
あんたいくつ??どこの子やの??
ちょっとここ座り!!
と、ベンチをバンバン叩いた。ちなみに挨拶をしてくれた子は既に遠くで友達とサッカーを楽しんでいた。
わかった。こうなったらとことんやってやる。ぼくはおばちゃんの隣に座って、「おばちゃんにオレの何がわかるねん」的な話をした。言うまでもない。ただの愚痴だ。おばちゃんはぼくが一通り話し終えると、「わかるで、でもな、子どもがボールを投げたら、大人はキャッチして投げ返さなアカンねん」とだけ言った。
ごもっともな話だ。どう考えても黄色いおばちゃんは正しく、青く沈んだぼくが小さい。地面を見つめるしかないぼくに、「これ、食べてもええで?」と、おばちゃんが自作の鶏めしオニギリを差し出した。
他人が握ったオニギリはちょっと苦手だ。普段なら断るが、その時は何となく食べてみたくなった。そう言えばお腹も空いていた。
ん?何これ?
めっちゃ美味い!!!
こんな美味いオニギリ初めて食べた。そう素直に伝えたら、おばちゃんは照れたように笑った。でも、直後に「ちょっと人参の切り方が大きいかな」とつぶやいたら、おばちゃんはまた猛虎の如く怒り出して、食べ物の好き嫌いは許さん!と、ましてや人参は栄養満点なんだと、熱弁を始めた。
そこから体感で1時間。激論、いや説教が繰り広げられた。ぼくもたまに反論した。おばちゃんは、時に怒り、時に笑い、ただただ喋り続けた。
別れ際、「またな」とぼくが言うと、「アホか!2度と会うか!」とおばちゃんは笑った。
その後、ぼくは引っ越すことになり、おばちゃんの言葉は現実になった。
ただ、いまでもたまに思い出す。
池のある公園を見ると思い出す。
あの黄色い虎のシャツを思い出す。
おばちゃん、あれから10年以上経ったけど、ぼくはまだ人参が苦手のままです。
でも、公園で子供とすれ違ったら、自分から挨拶するようにしています。
今週のお題「好きな公園」