【サッカー】少年サッカー観戦記19/限られた時間
2023.09
この日はチームにとって大事な大会だった。随分前から良い成績を残したいと誰もが言っていた。ぼくには詳しいことはよく分からなかったけど、とにかく息子がやる気になっているのが嬉しかった。
でも、最近息子はスタメンではない。いわゆるスーパーサブ的なポジションを確立しつつある。愚痴る息子に「スーパーサブかっけええ!」と励ますのが最近の我が家のトレンドなのだ。
スーパーサブかっけええ!ぼくの記憶ではジョホールバルの時の「野人岡野」。あるいは日韓W杯の時の「ゴン中山」。一方はW杯出場を決めるゴールを奪い、一方はその存在感で観客のテンションをマックスに引き上げた。とにかく、途中から出てきて試合の流れを変える。スーパーサブはかっけええなのだ。
今回の大会には50チーム以上が参加。上位2チームが県大会へと進む感じだ。2日間で最大4試合。3回勝てば県大会への進出が決定する。
この日は初戦だけが行われた。いつもスタートに弱い我がチームだが、この試合は何となく最初から勝てそうな感じだった。かれこれ6年近くこのチームを観続けている。何となく分かるのだ。予想通り前半の早い時間に先制点が生まれた。ちなみに息子はやっぱりベンチにいた。さぞかし悔しそうにしているだろうと、ビデオカメラの望遠で表情を確認してみた。きっちりコーチの横を陣取って、チラチラとコーチの顔を覗いていた。
そろそろ俺だろ?
とでも言わんばかりの表情だ。
まだ5分くらいしか経ってないのに。
でも、なんかいい感じだ。悔しさとやってやろうか感がにじみ出ている。思えばそこまで上手くないくせに点だけは獲るから何となくで試合には出れていた。ここに来て周囲に子たちのレベルアップもあり、伸び悩んでいる様子なのだ。かと言って、昔のように泣き言を言うわけではなく、しっかりと悔しがっている。まだまだ練習不足だと思う。けど、何となくだけどいい傾向だと思った。
試合はその後、めっちゃ攻めてるのになぜか点が決まらない。そんな状態が続いた。負ける気はしないけどモヤモヤする。そんな前半だった。
後半。満を持して息子がピッチに姿を見せた。きっちりとユニフォームインしている。これは彼なりの臨戦態勢の現れなのだ。公式大会の時は「ユニフォームイン」が推奨されているようで、息子も大会の時はユニフォームインが基本スタイル。しかし、彼の場合、気合が入りすぎている時は必要以上にインしている。インが過ぎるのだ。これはすごくいい傾向だ。
試合後に息子から聞いた話ではコーチの指示は明確だったらしい。「点を奪って試合を決めてこい」。シンプルな性格の息子には、これ以上無く気合いが入るオーダーだったに違いない。
限られた時間でゴールを決める。
これがここ最近の彼の課題。それについては2人で何度も話し合った。話し合ったと言っても「途中出場で点獲ったらかっけええよな」くらいのノリ。野人岡野やゴン中山の話をしたりして、息子のモチベーションを高めた。
後半に入ると試合の流れが良くなった。チームは早々に1点を追加した。自分のゴールじゃなかったことに息子は焦っていた様子だったが、何となくこの日は決めてくれる気がした。案の定、後半の半ばに息子の右足が火を吹いた。いや、大げさな表現を使ってしまった。シュートは割りと泥臭くて、味方からのパスに滑り込みながらなんとか合わせた感じ。ゆっくりと、コロコロと、キーパーの脇をすり抜けゴールネットに収まった。
どんなに泥臭くても、1点は1点。限られたプレー時間の中で彼はゴールを奪った。自身の役割をきっちりと果たしたのだ。そのことが誇らしい。
試合後、息子はおにぎりを貪りながら、明日の試合では俺のゴールで試合を決める!的なことを言った。
大きくなった。
心も、体も、口も。
頼もしくもあり、寂しくもあるのが親心。
中学生になったら息子の試合を観に行く機会も減るだろう。
「全部は観に来なくていいからね」
と思春期の息子に最近言われ始めているのだ。
卒団まであと半年を切った。
彼の勇姿を追いかける時間は限られているのだ。
だから、明日も息子のゴールが観たい。
涼しい風が吹くようになった河川敷グラウンドでそんなことを思った。