インサイドセールスって知ってますか?
営業未経験者ばかりが集まったミーティングで、スミスくんが言った。
入社5年目の彼は、昨年お子さんが生まれたばかりの意欲的な社員。
3年前からぼくと同じ企画部署に席を置いていた。
3本ラインでおなじみのあのスポーツブランドの名作スニーカーを、いつも小粋に履きこなしているから「スミスくん」と呼ばれるようになった。
やばい…めっちゃくちゃ初耳だ。聞いたことないワードです。
初耳過ぎて帰りたくなってきた。しかし、知らないとは言いづらい。
なにせぼくはリーダーなのだ。最年長なのだ。
あーあれね。最近よく聞くよねー
ぼくも結構好きだよ。。。
初見の難しい言葉が出たときは無難な言葉を並べつつ、「最近よく聞く」をくっつけとけばなんとかなる。社会人歴は長い。知ったかぶりは得意なのだ。
とにもかくにも、「インサイドセールス」。
スミスくん曰く、
・電話やメールで行う非対面の営業活動。
・対面商談などを示す「フィールドセールス」とセットで語られることが多い。
・従来のテレアポとは少しニュアンスが異なり、自社内に居ながら見込み顧客を育成するのが目的。
だから「インサイド」なのだろうか。
・国土が広いアメリカでは、従来の日本の営業マンのように足で稼ぐのは難しい。
・自然、電話営業が活発であったことから、このインサイドセールスという概念は非常にスタンダード(らしい)。
・インサイドとフィールド、多くの場合、このふたつの担当者は異なる(らしい)。
つまり、ざっくりと言えば、買ってくれるかどうか分からない相手と商談を重ねても無駄打ちが多いから、自社内からちょっかいを掛けつつ、徐々に購買意欲を高めていき、ここぞという時を待とうぜ。というところだろうか。
深く理解はできていないが、動きながら考えたい。何から初めていいか分からない僕たちにとって、最初のアクションはこれしかないと思った。
つまり、スミスくん、「インサイドを制するものは営業を制する」
そういうことだね。
きれいにまとめたつもりだったが、スミスくんはそうでもない表情を浮かべながら、「え、うん、まーそんな感じです」とだけ、うつむきながら言った。
なるほど。前途は多難そうだが、最初にやるべきことは少し見えた。
まずは気になる企業をリストアップして、電話をかける。
しかし、アポ取りが目的ではない。自社の紹介と先方が抱える課題のヒアリング。
インサイドセールスは、相手との関係値をジックリ深めていくもの。
そのぶん、「引き出すトーク力」が不可欠です。
そう言ったスミスくんの足元には、もはや例のテニスプレーヤーの姿はなく、かわりに米国が誇る巨大スポーツメーカーのロゴが輝いていた。彼も今までの彼とは違う。パパになったのだ。営業もできる企画職になるのだ。
ぼくたちは次のミーティングまでに、自分たちが攻めたい企業をいくつかピックアップして持ち寄ることにした。
ミーティングの最後に確かめあった。ぼくらはみんな営業未経験だけど、分からないことばかりだけど、目の前には壁しかないけれど、毎日笑顔で楽しみながら働こう。
それは昨年の今日。桜が散りかけた頃の話だ。