大学時代に仲が良かったスギくん。
東京生まれ東京育ちの彼は、どうやら自然にものすごく憧れがあったらしく、大学4年間のうちにみるみる「山男」へと変貌していった。
それは見事な山男ぶりで、肌はどんどん黒くなり、腕はどんどんカッチカチになり、服は全身アウトドアブランドでコーディネイトされていった。
ド田舎出身のぼくは、どちらかというと都会の生活を楽しみたい派の学生だった。山の何が良いのかわからず、ある日、スギくんに「なぜ山に登るのか?」聞いてみた。
そしたら、スギくんがめっちゃくちゃカッコイイことを言ったので、あーこいつ同い年だけど見てる景色が違うなーほんとすごいなーと感心したのを覚えている。
求めるライフスタイルは全く違う。たけど、スギくんとはなぜか妙に気が合った。山にも何度か誘われたけど、当時はバイトが忙しくて結局いっしょに行くことは一度もなかった。
そんなスギくんが、尋常じゃないほど興奮した様子でオススメしてきたのが、この夢枕獏先生の『神々の山嶺』という小説だった。
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ただ、ぼくはもともと読書をあまりしないし、山には興味ないし、バイトで忙しいしで、本は借りたけど結局は読まずに返した。
それでも、あの時のスギくんのオススメ度合いが異常だったこともあり、この作品についてはずっと心の何処かに引っかかっていて、いつか読もう、いつか読もうと気になっていたのだ。
そしたら、あれから10年以上が経ったこの2022年の夏、たまたまアニメ映画版『神々の山嶺』が公開されるとのニュースに触れた。「これは天命だ!今しかない!」ってことで、この週末に読んでみた。
ぼくは山に全く興味が無い。
小さい頃から見飽きているからだ。
だけど、この作品は名作だ!
名作としか言いようがない!
最初は、コレほんとに面白いのかー
次第に、いやコレ意外と面白いかもー
そして、いやいやコレ結構面白いなー
最終的には、いやいやいや、これヤバいなー続編ないのー
作品の世界にゆっくりジワジワとのめり込んでいき、ピークを迎える頃にはもう全身ズッポリとハマっていて、呼吸を乱しながら、朦朧となりながら山頂を目指している。ざっくり言えばそんな読書体験だ。
文字を読んでいるだけなのに、
気がつくとぼくはカトマンズの喧騒の中にいた……
文字を読んでいるだけなのに、
ぼくは確かに冬の南西壁を落とそうとしていた……
しかも…無酸素単独でだ……
名作すぎる!
全く興味がないぼくでも、山の見方が少し変わった。
あの時、彼が尋常ならざる興奮状態でオススメしてくれたのも納得だ。
スギくん、ご無沙汰しています。
今でも山に登っていますか。
あの時、せっかくオススメしてくれたのに読まずに返してごめんね。
もっと早く読めばよかったと、いまでは後悔しています。
もしあの時、借りてすぐに読んでいたら、いっしょに山に登ることも一度くらいはあったかもしれませんね。
いまは全く連絡をとっていないけど、この前の土曜日、ぼくはこの本を読みながら、スギくんの黒く焼けた顔とカッチカチの上腕二頭筋を思い出しました。ぼくの中の神々の山嶺では、エヴェレストの山壁にしがみつく主人公は、紛れもなくスギくんでした。
ところで、ひとつ気づいたことがあるんです。
「なぜ山に登るのか?」
ぼくの質問に対する、あのスギくんのカッコいいセリフ。
ぼくの心を震わせた、あのカッコいいセリフ。
あれ、夢枕先生のパクリじゃねーか!!!笑
主人公のセリフと全くいっしょじゃねーか!!!笑