ウィキペディアで調べてみると、放映期間は1987年-1890年。もう30年以上も前の作品だった。毎週楽しみしていた『ミスター味っ子』。ひとことで言えば料理対決アニメだ。
それまでバトル漫画やスポーツ漫画に夢中だったぼくは、このアニメを見て「アイデア勝負」という概念を学んだ。どんなに恵まれない環境でも、人は「アイデア」ひとつで困難を乗り越えることができる。「努力」ではなく、「アイデア」で乗り越えるという所がポイントだ。
幼いぼくにとってのヒーローは、あの宇宙最強のスーパーな戦闘種族の彼や、ボールが友達の爽やかサッカー小僧ではなく、かの味皇も認める天才少年料理人・味吉陽一。
彼の料理を真似したくて、彼を超えるアイデア料理が作りたくて、小さな右手で包丁を握った。そして、時には文章では表現しきれないほどの失敗作を生み出し、「食材を無駄にするな」と母親を激怒させたりもした。
中学3年の頃、進学先の第一志望に調理科がある高校を書いたら、急遽3者面談が開かれた。担任と親から約2時間、「進学校に行け!」「大学に行け!」と諭された。当時は中途半端に成績が良かったのが災いした。
結局、進学校に進んでしばらく料理とは無縁だったけど、大学に入学して一人暮らしをはじめるとすぐに、ぼくはイタリアンレストランの厨房でアルバイトをはじめた。
履歴書の志望動機には「ミスター味っ子が好きだから」と書いた。そしたらある日、強面の料理長が渋い声で「オレも好きだったよ・・・」と言ってくれた。雑用がメインだったけど、毎日楽しかった。
なんだかんだで料理とは関係がない道に進んで今に至る。たまに、「あの時調理科に進んでいたら違う人生だったかなー」なんて思うこともある。ありふれた後悔だ。30過ぎたら誰にでもありそうな、平凡な後悔だ。
先日、名探偵コナンを観た。久しぶりにミスター味っ子の姿が目に浮かんだ。声優の高山みなみさんと言えば、コナン君でも、魔女宅でもなく、ましてやクレヨンしんちゃんのおケイおばさんでもない。ぼくにとっては味吉陽一なのだ。
ふと思った。そう言えば、アニメは最終回まで観たけど、漫画版は読んだことがない。というわけで、衝動買いした。大人買いしてしまった。ミスター味っ子[文庫版]全巻セット。
こ、これは、最高すぎる…
仕事は手に付かないし、ブログは滞るし、寝転びすぎて腰は痛いし、生活へのダメージは甚だしい。ものすごいペースで9巻まで読み切った。
ただ、このまま最終回まで読み進んでしまったら、終わってしまう。
ぼくの味っ子が終わってしまう。
ありふれた後悔がそうさせるのか、ぼくはまだ最終巻を開くことができないでいる。